●具体的な計算例
さて、その1でツィオルコフスキーの式(ロケット方程式)と人工衛星になるための必要速度が分かったので、具体的に計算してみましょう。
図1はいろいろな比推力に対して質量比m0/m vs ΔVをプロットしたものです。
比推力はそのまま倍々で効くものの、構造比を上げて(横軸右)ΔVを稼ぐにも、対数関数の性質からサチってきて限界があることが分かります。
$$\Delta V=g I_{sp} \ln{\frac{m_0}{m}}$$
図1 質量比とΔVの関係
ロケットの王様、サターンV第一段で計算してみましょう。
項目 | 単位 | 数値 |
m0 | ton | 2280 |
m | ton | 130 |
Isp | s | 263 |
図2 アポロ10号のサターンV第一段
数値、写真はwikiから持ってきました。
これをロケット方程式に代入すると、
$$\Delta V=9.81 \times 263\times \ln{\frac{2280}{130}}=7390m/s$$
ΔV=7.39km/sですね。その1で求めた第一宇宙速度7.9km/sに届きません、、、
図3を見てください。左から順に発射時、推進剤を半分消費時、すべて消費時、の時のm0/mを赤丸でプロットしています。ここからわかることは、大部分のΔVは後半の燃料を消費したときに獲得している、ということです。前半では重い推進剤を一緒に加速させる必要があるためです。逆に後半では燃料が少ないにもかかわらず空に近いタンクを抱えて飛ばなければならないわけです。
というわけで、多段式ロケットの登場です。
図3 質量比をΔVの推移
●多段ロケットの威力
同じ推進剤質量を1段と2段で分割するようにしてみましょう。
推進剤質量は2280-130=2150ton、これを第1段に1500ton、第2段に650tonというように分割します。分割しただけで推進剤の総質量は変わっていません。
図4 推進剤を第1段と第2段で分割
ロケット方程式を書くと、
$$\Delta V=g I_{sp} (\ln{\frac{M1_0+M2_0}{M1+M2_0}}+\ln{\frac{M2_0}{M2}})$$
$$=9.81\times263\times (\ln{\frac{1590+840}{90+840}}+\ln{\frac{840}{160}})$$
$$=9.81\times263\times (\ln{2.61}+\ln{14.0})$$
これを計算すると、ΔV=9.3km/sとなりめでたく第一宇宙速度を超えました!
推進剤の総量は同じで、より大きいΔVを得ることができました。これが多段式ロケットの威力です。不要な燃料タンクを捨ててシェイプアップすることで大きな効果が出ています。
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